Review “When you see a shooting star..”, 2002

毛内やすはる

堀田真作の今回の個展は、40点ほどの小ぶりな平面が、それらが大きさや長さをそれぞれ変えられ、壁面にランダムに掛けられていることで、見る者がギャラリー内にリズムを感じる展示となっている。すなわちギャラリーに入るや、まず、対峙する三つの壁面に展開するたくさんの銀色に光るアルミニウムの四角形の流れが目に付き、そのような配置にしたことで作品と作品の間に流動的な繋がりが生まれ、全体として、浮遊感ないし飛翔感をあたえる空間になっているのである。
これは前回書いたことだが、昨年の同ギャラリーにおける個展では、平均的な大人の身長よりやや大きい高さ(150号ほど)の作品と、それよりやや小さな(50号ほど)作品とで構成され、筆触をそれぞれ左右の平面同士が交換し合うことでお互いの絵画空間がスライドし、自然光・筆触・素材が複雑な関連をもつことで、作品が周囲の空間に溶け込んでいく効果を与える展示になっていた。

しかし今回、離れて眺めるときは一枚一枚の中に描かれた筆触は伺うことはできるものの、小品であるゆえに作品の矩形が強調され、個々の作品の内部を詳しく鑑賞するためには、その作品に近づいて見ることが要求されている。また今回は前回のような、隣り合っている平面同士での筆触の交換・ズレはなく、展示全体におけるリズムはありながらも、平面内の筆触の流れはその平面自体の中で完結している。
またさらに個別の作品を見ていくと、アルミニウムに対する筆触の介入、垂直版の交錯、光の反射が微妙な奥行きの感覚を画面に生じさせ、それぞれの作品にさまざまな表情が生み出されている。
ー平野、丘、大地、空、森、雲、雨、山、霧、大気…、それらを連想させる抽象化されたイメージが、硬質な物質の平面上に入り組むように描かれ、そして、不規則に並べられた一点ずつを目を移しながら眺めていくことで、個々の作品がもつ独特のイメージの差異性が現れてくるのだ。

つまり今回の作品群は、それぞれが自立した「絵画空間」を持つように描かれているのであり、そのような作品の立ち現れ方は、前回の個展における、作品同士が浸透し合う「空間」の立ち現れ方とは極めて異質である。そして私が作品を見ていて気になったのは、その平面に描かれた筆触=図に対する、垂直版を支える基盤=地との関係である。
作品は小さく近づいて見られるゆえに、矩形と硬質な物質性も強く認識させる。基盤は垂直版の鋭い連なりを上下でビス止めすることで支え、平面の不動の土台として機能する。そして垂直版の上に筆触が介在していることでー垂直盤の同一平面内での交錯はあるもののー絵画的イリュージョンが発生してゆく。事実今回の作品群は、様々なイリュージョンの連鎖として見ることができるのだが、しかしそのことで、逆に、筆触および垂直版を支える基盤の存在も、すべての作品に共通する地として際立っていくように感じられるのである。

そこで堀田真作が何を求めていたのか、それを知ることはできない。しかし実際、今回の個展で、筆触が施されていない\、いわば「地」のみの作品も展示されていた。それはそれだけで存在感があり、ーおそらくそのことについて意識的であるだろうがーその「地」を露にさせたことで、堀田真作の作品に今後どのような展開が起こっていくのだろうか。